千葉県にあるただひとつの相撲の
城。蔵前まで京成で50分弱とか。
この首都圏部屋で幕内板井が育つ。
現役時代、押しの一手で大鵬、
佐田の山などを破って男を上
げた元関脇高鉄山が親方。口
も八丁、動きもエネルギッシ
ュというところ。

解説
この号は私の文章が、そのまま編
集されており、作者としては気持
ちのいい頁になっています。
良く解釈すれば23回目の取材で
編集者に私の文書を理解していた
だいたと言う事かも知れません。
23)大鳴戸部屋

松風の中静かな住宅街

 「小錦が出てくると、館内があたたかくなりましたね」
「服部はスケールの大きい相撲を取りますね。ガチンと天ノ山を受け止めていくんですからねえ。
自信をもって欲しいですね」
 歯切れのいい解説であった。
本誌でおなじみのNHK向坂アナウンサーといっしょに十両の取り組みの解説をしているのが、
元関脇高鉄山の大鳴戸親方だ。
 おもしろい。話にポリシーがある。ややもすれば、しろうとにわかりにくい解説者の多い中で、
この親方の一貫したT熱い言葉Uは私をうれしくさせた。
 それは初場所四日目のこと。その翌日の1月12日、大鳴戸部屋へ取材に行った。
 冬の朝は真っ暗。まだ夜間割り増しのタクシーが町を走っている。東横線の学芸大学前駅5時36分
発に乗る。そして京成の鬼越駅に着いたのは、7時10分。
 大鳴戸部屋は千葉県市川市北方2の22の14が地番。市の繁華街からはややはずれている。なにし
ろ千葉県にあるただひとつの相撲部屋だ。成田空港が近いせいだろう、広く青い空に銀色のつばさを
きらめかして、ジェット機が飛ぶ。
 神社の大きな松に風がざわめくが、まず静かな住宅街。大きな犬のいる家が何軒かある。
大鳴戸部屋はそんな環境の中にあった。



親方のエネルギー浸透

 玄関で
「おはよーございまーす。読売大相撲からきましたあ」
 最近は大きな声を出すことによって、初めてのところへきたという、気恥ずかしさみたいな、
プレッシャーをはね返そうとしているのだ。
「おーい、あがれ、あがれ、あんただけか」
 親方の声である。
 けいこ場には10人ぐらいのお相撲さんがけいこをしている。
「このへんは空気がいいですねえ」
「いや、東京がわる過ぎるんだよ」
 というような話から、50年に
朝日山部屋を離れ、141坪(465.3F)のここの土地を見つけ、
部屋を建てたのが51年。独立しててっとりばやくやりたかったので、千葉県へきた、という説
明をする親方の表情はくったくがない。
「千葉というから遠い感じがするけど、蔵前までは京成で50分弱、総武線の浅草橋までは30分
もかからないよ」 との親方の弁。
 突貫工事で仕上げたというがりっぱなけいこ場だ。
 現役時代押し相撲で鳴らし、大鵬や佐田の山を破ったこともある親方。言葉も動作もキビキビ
している。「腰を落として、ガーッと」
「考えて取らなきゃダメだ。そうだ、自分の実(み)になるけいこをしろ!!」
「ナルーッ」(とだれかを呼ぶ)
「ハイーッ」
「このヤローッ」(土俵に向かって)
「ストーブ、ここへもってこい」
 など、多角的に声を出している。
 そうかと思うと、
ペットのかわいい子ねこちゃんを相手にして
「オイ、オイ、ウン、ウン、それ、下手投げ」

 と、自分の人さしゆびと中ゆびで、パッと顔を上げたかとみると
「さあ、さあ、申し合いだ。けいこしなけりゃあ。けいこするからいいんだぞ。保志なんかみて
みい。けいこするから、若くてもあれだけになるんだ」 と威勢よくどなってる。
 親方のエネルギーが若いお相撲さんたちに浸透しているように、元気のいい返事が出て、明るい
汗が体に流れる。

美男で強い幕下若高鉄

 東幕下33枚目の若高鉄。175センチ、82キロ、小さいが姿や形はまさにミニ千代の富士。
運動神経のかたまりのような筋肉。厚い肩や胸に比べて、そり落としたような腹筋、力士と
いうよりはプロレスラーを思わせる。顔立ちもりりしくて、黒髪もふさふさとしている。
若い頃の貴ノ花、いや歌手の郷ひろみかな。スタイルが千代の富士。
マスクが(貴ノ花+郷ひろみ)÷2いや、大変な美男力士です。目立つなあ。
 そのうえ、
若高鉄は強い。東昌邦、若天佑、若美唄など全然歯が立たない。
「両足、両手を使わなきゃ!!パッパッと巻き替えなきゃ、お前のは、手をぶらんとするだけじゃ
ないか」 相変わらず親方の声がするどい。部屋中がゆれるようだ。
 若高鉄がすごいことをやってる。序ノ口、178センチ、134キロの高田を肩の上にのせて、ス
クワットしている。けいこ量もすごい。(若高鉄は初場所4勝3敗)
 8時10分、幕内西前頭7枚目の
板井が、けいこ場におりた。関取用の白いまわしを締めて貫禄
十分という感じ。若い力士をつかまえて、軽いけいこを始めている。四日目まで2勝2敗。今日
五日目の相手は再入幕の陣岳である。 板井は、私と同郷の大分県出身。頑張れ。上がり座敷の
二つのガスストーブが赤々と燃えている。

  1984..記池田雅彦

その後残念ながら、大好きな大鳴戸親方は、病院で亡くなりました。私の記憶では関係者もう一人
と一緒になくなっているはずです。はっきり物を言い、相撲界を客観的に見られる人の様に思って
いたので当時は少しショックをうけました。相撲界の暗部が出てきたような、暗い気持ちになりま
した。ちなみに弟子の
板井は、八百長発言でこれまたお騒がせの相撲界ではっきり物を言う異端児
でした。でも強かったのです。
八百長は強いからできるそうです。私は週刊誌の受け売りですが。

若高鉄はその後プロレスラーになりました。最初は結構目立った団体に出ていたような気がします
が、ネットで調べてみますと、現在は小さな団体いわゆるインディーズで、小さな会場でまだ頑張
っているみたいですね。<
青果市場>か何かの会場で、彼が戦っている勇姿を写真で見ました。
小麦色のその体は、やはりいい体でしたが私が部屋で見た彼とはちょっと違っていました。もちろ
ん髷もないですが、相撲のりりしさは感じなかったです。もう19年も前のことなんですね。あっ
そうそう、彼のリングネームは
維新力でした。なつかしいなぁ。2003.3.2記